新型コロナウイルス感染拡大により広がるARの利用シーン

Microsoft HoloLensウェアラブルテクノロジーを使用し、医療従事者に人工呼吸器の操作方法を支援(イスラエルの医療センター) 

新型コロナウイルスの感染拡大を通じて、AR技術の新たな利用シーンを発見し切り開いているイスラエルのシェバメディカルセンターとブロードバンド事業者のCox Communications 社。両者とも、新型コロナウイルスの終息後も、データ可視化技術を引き続き利用していくだろうと見られています。

「これは革新的なツールだ。より多様なニーズに適用できると確信している」と述べるのは、シェバメディカルセンター、リハビリテーション病院院長で、イスラエルメディカルシミュレーションセンターの創設者でもあるAmitai Ziv氏。

ARは、3D画像や視覚的な指示といったデジタルコンテンツを、現実世界で見ているユーザーの視界に重ね合わせます。モバイルデバイスや、マイクロソフト社が出しているHoloLensなどのウェアラブルヘッドセットを通して体験することができます。

これまで企業は、自動車などの製品を設計し、オペレーターが製造プロセスにおいて段階的な製造指示を受け取るのにARの初期版とも言うべき技術を実験的に使用してきました。Forrester Research 社の副社長兼主席アナリストであるJ.P.ガウンダー氏によれば、新型コロナウイルスの感染拡大により、従業員と顧客の直接接触が避けられるようになっているため、こうした分野におけるリモートサポートやトレーニングを含むユースケースが増加しているとのことです。

今年の3月以降、シェバメディカルセンターでは、HoloLens 2ヘッドセットを5台使用して、医師、生物医学エンジニア、看護師を含む約60名の医療スタッフに新型コロナウイルス感染患者向け人工呼吸器の操作方法をトレーニングしています。HoloLensヘッドセットを装着すると、ユーザーは、コンピューター処理と光学投影システムにより作り出されるデジタルホログラムのようなオブジェクトが映し出され、自分が見ている映像に重ね合わせて実際の機材を操作できるようになります。

 シェバメディカルセンターのケースでは、ヘッドセットを装着している医療従事者は、ヘッドセットを通して人工呼吸器のホログラムのような描画を見ることができます。ヘッドセットには、作業者をガイドする指示が組み込まれていて、実際に目の前にある人工呼吸器を操作することができます。また、ヘッドセットを使用することで、他の場所にいる医師が、実際の病室に向かうことなく患者に何が起きているかを確認できるため、医師は的確なリモートサポートを提供できるようになります。ヘッドセットを装着しているユーザーには、病院の別棟にいる医師が見ているリアルタイムビデオ画像に接続でき、そのデジタル画像が自分のいる実際の部屋に映し出されます。HoloLensヘッドセットまたはモバイルデバイスのいずれかを使用することにより、医師はユーザーが見ているものをリアルタイムで見ることができます。

 シェバメディカルセンターの最高イノベーション責任者であるEyal Zimlichman氏によれば、同センターでは、感染拡大以前から、今年中にAR技術の使用を検討する予定でした。「今回の新型コロナウイルス蔓延によって、AR技術を使用するという私たちの決定、そしてその技術が医療において重要なツールになるという理解が強化された」と同氏は述べています。

Microsoft HoloLensの主任プログラムマネージャーであるCharlie Han氏によれば、1月以来、HoloLens 2を使用したリモートアシスタンスは13倍に増加しており、その理由として、ソーシャルディスタンスとロックダウンが挙げられるとしています。

Forresterが編集した2019年11月のレポートによると、ARおよび複合現実(MR)のヘッドセット着用が予想される米国の従業員数は、2028年までに860万人に達するだろうと予測されています。

テック系企業では、ホログラムのようなインタラクティブなオブジェクトを、ユーザーが現実に見ている視界上に仮想的に重ね合わせたものを「複合現実」(MR)と呼び、「拡張現実」(AR)という用語は、ユーザーの視界に重ね合わせられた静止画像を指すとしています。

Forresterのガウンダー氏は、企業がこの技術の価値を認識することで将来予測に変化が生じる可能性があるため、技術導入が今後数年間で加速する可能性があると語ります。同氏はメールの中で、「新型コロナウイルスが蔓延している間に、ARとMRに対する企業の関心は大幅に高まっている」と述べています。

ブロードバンド事業者のCox Communications 社は3月、AR技術を住宅設備関連技術者や請負業者を含む5,000人を超える従業員に導入。「自分たちの事業運営には絶対に不可欠だ」と、COOであるLen Barlik氏は述べます。インターネット設備の導入やモデムの接続、Wi-Fiネットワークのパスワード設定等のサポートが必要となる同社の顧客には、アラバマに拠点を置くテック系企業、Help Lightningの提供するソリューションを通じて、サポート通話を開始するリンクがメールまたはテキストメッセージで送信されます。

顧客側に届いたリンクをカメラを搭載したスマホやタブレット上でタップすると、接続が確立して、技術者側で顧客が見ている映像を確認しながら顧客と話すことが可能となります。画面上で、ケーブルなどの特定のオブジェクトに、円や矢印を「描く」こともできます。

通常、そうしたサポートやトラブルシューティング依頼を実施するには、顧客の家に立ち入る必要がありますが、新型コロナウイルスの蔓延状況およびソーシャルデイスタンスの規制により、多くの州でそうした方法が取れなくなりました。

Cox Communications社は今年までカスタマーサービスという分野において、この技術を実験的に使用する方針でいたものの、感染症対策という特殊な状況がその使用を加速させたと、バリク氏は述べました。

同社では現在、Help Lightningを使用したサービスを一般住宅用途に限定しますが、このウイルス蔓延状況終息後も継続的に使用され、エンタープライズ系の顧客にまで拡大される可能性が非常に高いと言えます。AR技術を通じて顧客にサービスを提供することで、移動にかかっていた時間とコストを大幅に削減できると、Barlik氏は述べています。「継続利用は間違いない」と同氏は述べました。

Help Lightning社の最高経営責任者であるGary York氏によれば、同社は2月~4月の間、リモートアシスタントを通じて435%の事業成長を遂げたとのことです。

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